ブラスフェマスにおけるメインストーリーについて、連載形式で解説・考察をしています(ネタバレあり)。このページでは、連載の第三回目として、「前編:三つの屈辱と三試練の橋」までのストーリーについて解説しています。ストーリーに興味のある方、プレイ済みで振り返りたい方などの参考になれば幸いです。
概要
前回の記事
前回の記事は「02_序章:巡礼の始まり」です。ブラスフェマスの前日譚である『THE KNEELING』とプロローグ、最初の街アルベロの到達までの内容を解説しています。
本記事は、前回の記事の続きの解説・考察記事となっています。
本記事のトピック
本記事では「三つの屈辱と三試練の橋」として、ブラスフェマスメインストーリーの前半部を解説しています。項目は下記のとおりです。
- 一つ目の屈辱「自責」
- 二つ目の屈辱「悔恨」
- 三つ目の屈辱「改悛」
- 「三試練の橋」を越える
以降の項目では、メインストーリーのポイントを時系列で紹介しています!また、「考察ポイント」では後のストーリー展開なども踏まえた解釈を記載しているので、ネタバレにはご注意ください。
前編:三つの屈辱と三試練の橋
一つ目の屈辱「自責」
デオグラシアスの預言に従い「奇蹟の揺籃」を目指す悔悟者は、一つ目の屈辱を果たすために「厚い雪と氷に一面が覆われた高い山脈」へと向かいます。
城下町アルベロから一歩外へ出た先にある教会廃墟の荒野は、犠牲者たちが杭にくくりつけられたまま晒され、奇蹟に歪められた怪物たちが闊歩する、危険な領域となっています。教会の廃墟である建造物内には、砕けた聖像やステンドグラスなどが飾られており、人々が消えてもなお残り続けるクヴストディアの信仰が垣間見えます。
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教会廃墟を探索する悔悟者。 |
教会の廃墟を上へと登っていくと、一面が雪に覆われたオリーブの枯畑があり、さらにその先には、絶え間なく雪が降り注ぐ山頂墓地が悔悟者を迎えます。この極寒の山脈では、力尽きた人々が至る所で凍りつき、放置された遺体は雪像と化しています。悔悟者は、吹き荒れる風に煽られて足を踏み外しそうになりつつも、険しい山脈を上へ上へと登っていきます。
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オリーブの枯畑にいるジェミノ。彼のサブクエストは個別記事を参照のこと。 |
遂に山頂へとたどり着くと、岸壁に彫られた涙を流す聖女の巨大な彫像と、目的地である封鎖された修道院、「『焦貌の聖女』修道院」の入口が見えてきます。修道院の内部に入っていく悔悟者。すると、大きな槌を担いだ兵士風の男(エズドラス)が、悔悟者のあとを追いかけるように登場します。男は「何者かが禁じられた扉を目指している」と、その場には姿の見えない「妹」へと話しかけ、そのまま姿を消します。
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悔悟者を密かに追跡・監視する謎の男(聖別軍 エズドラス) |
『焦貌の聖女』修道院の内部には、すでに尋常な人の影はなく、多くの異形が闊歩しています。おそらく、かつてこの修道院内で生活していたであろう修道女たちは、巨大な香炉を振り回して襲いかかってきます。また、頭上から煮えたぎる大量の油を放出する仕掛けを作動させ、こちらを焼き尽くそうとしてくる個体もいます。
怪物たちを打ち倒し、煮えたぎる油も回避して修道院の奥へとたどり着くと、最奥の部屋へと続く廊下で一人の女性が悔悟者を待っています。彼女は「ヴィリディアナ」と名乗り、「祝福の地よりあなたを見守るという使命を受けて遣わされた」と悔悟者に告げてきます。曰く、彼女は悔悟者を助ける力を授かっていますが、その助力を受けるか否かは、悔悟者の選択に委ねられているとのこと。
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悔悟者への助力を提案するヴィリディアナ。 |
悔悟者がヴィリディアナの助けに同意すると、「その御心のままに」と告げ、彼女は瞬間移動でその場から消え去ります。悔悟者が廊下の先へと進むと、石畳の通路の奥に暗闇が広がる広い部屋につながります。そしてその暗闇の空間から、巨大な焼けただれた人の顔面が浮かび上がってきます。この異形こそが、修道院の信仰対象であり、この場の歪んだ奇蹟の核である「焦貌の聖女」です。
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『焦貌の聖女』修道院のボス、焦貌の聖女と戦う。 |
焦貌の聖女は、宙に浮かんだ巨大な手のひらのタリスマンから、魔法弾や光線を放ち、悔悟者を狙い撃ってきます。悔悟者は攻撃を回避しながら、焦貌の聖女の額の傷を狙うことでダメージを蓄積させていくことができます。
ヴィリディアナの助力に同意した場合には、彼女はボス部屋に現れ、悔悟者の体力が少なくなると聖なる力で回復してくれます。長い戦いの末に焦貌の聖女の体力を削りきると、その頭部と両の手は暗闇の底へと転落していきました。
ボス部屋の奥へと進むと、そこは聖人の遺体を安置する聖遺物保管庫でした。格子越しに見える聖遺物の前に跪くと、悔悟者はどこまでも夕焼け空の続く荒野のような異空間へと転移します。歩みを進めると、悔悟者の前に「聖なる守護者の貌」が現れます。
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異空間で聖なる守護者の貌と邂逅する。 |
聖なる守護者の貌は、自らを「罪を償う魂が抱える三つの嘆き」のうちの一つを守っている存在だと語り、試練を乗り越えたことで悔悟者が自らに会うことは許されたのだと告げます。悔悟者は聖なる守護者の貌より「自責の聖傷」を授かり、夢から醒めることで現実の修道院へと帰還します。
先へ進むと、デオグラシアスが悔悟者を迎え、あと二つの聖なる守護者の貌の前で跪く必要があることを悔悟者に伝えます。彼の言う通り、果たすべき贖罪の屈辱はまだ始まったばかりなのです。
考察ポイント
焦貌の聖女など、ブラスフェマスのボスキャラクターは、ストーリー上で戦うだけではその正体は掴めません(正体のわからない脅威と戦うことで緊張感をもたせる、意図的な設計になっているのでしょう)。ゲーム内で取得できるアイテムに記載された「伝承」テキストなどから、背景ストーリーの断片を想像的につなぎ合わせて、キャラクター像を結んでいくことになります。
焦貌の聖女のキャラクター背景は、オリーブの枯畑にいるジェミノから託されるアイテム「空の黄金指ぬき」(煮えたぎる油の黄金指ぬき)の伝承テキストから垣間見えます。伝承に登場する「アウレア」という女性は、彫像のモデルとなるほどの美貌を有していましたが、次第に周囲から神聖の象徴として扱われるようになりました。その崇拝に耐えられなくなった彼女自身は、自らの顔を煮えたぎる油で焼き、修道女へと隠遁したと語られています。
おそらくこのアウレアを聖女として崇めていたのが『焦貌の聖女』修道院であり、「奇蹟」によって歪められて怪物と化してしまったのが焦貌の聖女なのでしょう。自ら焼いた顔貌を強調するかのように頭部が巨大化した異形となってしまっているのは、歪んだ奇蹟の悪意すら感じられます。また、『焦貌の聖女』修道院のエネミーである修道女たちの設定デザインでは、彼女たちも焦貌の聖女アウレアに倣い、自らの素顔を焼いたうえで黄金の仮面を装着していることがわかります。崇拝の対象(アウレア)のエピソードに因んだ象徴的な行為を信仰共同体の絆とすることは現実でもまま見られますが、ここでは素顔を焼くというより直接的な行為が、彼女たちの修道会への参加のイニシエーション(通過儀礼)となっているのかもしれません。
なお、「自らの素顔を油で焼いた修道女」というエピソードは、中世セビリアのマリア・コロネルという人物の伝説にインスパイアされたものでもあります。詳細については焦貌の聖女の個別ページで解説しているので、よろしければ下記をご参考ください。
このように、ブラスフェマスのストーリーやキャラクターの造形・解釈には、ゲーム内部だけではなく、キリスト教やスペインの伝承・歴史・芸術などの外部的な要素も関連しています。それらの源泉を辿っていくのもまた、ブラスフェマス世界の深み・広がりを感じさせてくれるものとなるでしょう。

二つ目の屈辱「悔恨」
一つ目の屈辱を果たした悔悟者は、デオグラシアスの預言で「闇の奥深く、眠れる者が潜む埋葬された教会」へと向かいます。
再び教会廃墟の荒野を越えて先へ進むと、荘厳な教会建築が見えてきます。扉は開かれ、内部から怪しい緑色の光が漏れ出し、怪しく悔悟者を誘います。怯まずに教会内へと突入する悔悟者のあとを追い、再び謎の兵士風の男(聖別軍 エズドラス)が登場します。
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再び悔悟者の後を追跡している謎の男(聖別軍 エズドラス)。 |
彼は姿の見えない「妹」へと語りかけ、悔悟者との邂逅が近いことを呟くと、手にした槌を地面に何度か打ち付けて、その場を去ります。男と悔悟者が出会うとき、闘いは避けられないであろうことが予感されます。
悔悟者が足を踏み入れた教会は「慈悲なる夢」と名づけられた領域です。地下へと伸びる構造をした石造りの建築で、内部は格子扉によって何重にも封鎖されています。機械仕掛けの罠が至る所に設置されており、犠牲者の身体を突き刺したであろう鉄槍のそばには、今も大量の血痕が残されています。
教会の奥へと深く潜っていくと、そこには白装束の老女が立っていました。話しかけると、彼女はなんと先の闘いで悔悟者を助けてくれたヴィリディアナでした。
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聖なる力を使い、老いてしまったヴィリディアナ。 |
ヴィリディアナは悔悟者の体力を回復する能力を用いたことで、急激に年老いてしまったようです。彼女自身はそれを「些細な代償」であると語り、前回と変わらずに悔悟者への助力を提案してきます。彼女の身を慮ると、そのまま提案を受け入れることには迷いが生じますが、災厄なりし奇蹟を打倒するための闘いに彼女の力を必要としているのも、また事実です。悔悟者は再びヴィリディアナからの助けに同意します。
悔悟者が奥へと進むと、手足が植物の根のように変質した巨大な異形の怪物が、聖母像に抱えられるようにして眠っていました。悔悟者が近づくと怪物は身を悶えさせて眠りから目覚め、自分を抱いてくれていた聖母像の頭部を引きちぎると、悔悟者に牙を剥いてきます。この異形こそが慈悲なる夢のなかで微睡む奇蹟の怪物「慈悲を施す者」です。
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慈悲なる夢のボス、慈悲を施す者に挑む。 |
慈悲を施す者は、その大きな腕で悔悟者を薙ぎ払ったり、踏み潰そうとしてきます。タイミングを読んで懺悔の剣で防ぎつつ、こちらも攻撃を重ねていきます。遂に体力を削り切ると、慈悲を施す者は血を吐いて地に倒れ伏し、まるでその存在そのものが夢であったかのように消滅していきました。
奥へと進むと、ここにも先の修道院と同様に、聖人の遺体を安置する聖遺物保管庫がありました。遺体の前で跪くことで夕焼け空の異空間に転移した悔悟者は「悔恨の貌」である聖なる守護者の貌から二つ目の屈辱として「悔恨の聖傷」を授けられます。
現実世界に戻った悔悟者が先へ進むと、クヴストディアの地下に広がる冒涜の貯水路でデオグラシアスに迎えられます。
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冒涜の貯水路でデオグラシアスに迎えられる。 |
デオグラシアスは屈辱の二つ目が果たされたこと、あと一つの聖なる守護者の貌の前で跪く必要があることを告げます。三つの屈辱を果たすことの終わりは近づいていますが、老いていくヴィリディアナや悔悟者を追う謎の男(聖別軍 エズドラス)の存在など、気がかりは減ることがありません。それでも巡礼の歩みを一歩一歩進めなければ、奇蹟が纏うヴェールを剥がすことはできないのです。
考察ポイント
慈悲を施す者が聖母像に抱きかかえられて眠っている際のポージングは、十字架から降ろされたキリストの身体を抱きかかえる聖母マリアを描いたキリスト教美術の題材「ピエタ」(慈悲)をモチーフとしています。慈悲を施す者のスペイン語名称も「Ten Piedad」(テン・ピエタ)となっています。
有名なミケランジェロの《ピエタ》(サン・ピエトロ大聖堂) |
「奇蹟」により異形の怪物と化した慈悲を施す者は、眠っている間だけ、人間だった頃の意識が夢のなかで目覚めるという設定があります。慈悲なる夢とは、怪物に変貌させられた名も知らぬ人物に僅かに残された慈悲である夢の領域を表現する名称なのでしょう。キャラクター解説の詳細は、慈悲を施す者の個別記事などもぜひご参考ください。
また、「夢」というキーワードは、ブラスフェマスシリーズに何度も登場する重要な概念の一つです。一般的には睡眠中に現実のように感じる一連の観念・心象イメージですが、ブラスフェマスにおける「夢」とは、登場人物たちが生きている現実世界と、死後の魂が赴く「あの世」との中間・境界に位置する異空間・意識界の領域でもあります。必ずしも個人のみに閉じた領域ではなく、聖なる守護者の貌たちや塩漬けの祝福の神のように奇蹟が選んだ「聖なる存在」と交感する、現実を超越した場でもあるのです。ブラスフェマスにおいて死者の魂が赴く場所を「夢の向こう岸」とたびたび表現しているのも、生者と死者の中間の神秘的な領域のイメージがクヴストディアで共有されていることの証なのでしょう。

三つ目の屈辱「改悛」
二つ目の屈辱を果たした悔悟者は、デオグラシアスの預言で語られた「鉄の螺旋より裂き出でた呻きによって刻まれた痕跡の最果て、地中に育ったホンドという鐘のはらわた」へと向かいます。
冒涜の貯水路を越えた先に広がる終わりなき黄昏山脈では、災厄なりし奇蹟によって火刑に処され続けている犠牲者たちが、どこまでも続く夕焼けの朱を彩っています。ドーム状の廃墟がある地点に着くと、突如として空中に赤い翼を生やした黄金鎧の女性兵士(ペルペチュア)が現れ、言葉を発することもなく悔悟者に襲いかかってきます。![]() |
終わりなき黄昏山脈で赤い翼の女性兵士(ペルペチュア)と戦う。 |
赤い翼の女性は自在に稲妻を発生させて悔悟者を狙い撃ちにしたり、槍とともに猛スピードで突進をしてきます。稲光を避けつつ攻撃を重ねていくと、赤い翼の女性はその場から瞬間移動で姿を消してしまうのでした。同時に悔悟者は「ペルペチュアの防具」を入手します。
妨害がありつつも終わりなき黄昏山脈を越えた悔悟者は、放棄された鉄鋼の採掘場ホンドへと到達します。奇蹟の怪物が彷徨くホンドは、連鎖して衝撃音波を共鳴させるいくつもの小鐘や、串刺し床が至る所に設置された鉄鎖の処刑場と化しています。探索を進める悔悟者は、鎖を引いていた二組の青銅の像を破壊して、釣り上げられていた鐘を引きずり降ろし、懺悔の剣でもって強く打ち鳴らします。
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ホンドで鐘を打ち鳴らす。 |
すると、幾重にも反響した音は強大な波となってホンド中を震わせ、悔悟者の足元の通路は崩壊してしまいます。成すすべなく深淵へと吸い込まれていく悔悟者でしたが、辿り着いたのは次なる目的地、ホンドのはらわたである地の底の大洞窟怨嗟の縦穴でした。
怨嗟の縦穴は毒霧が漂い、風化した床がすぐに崩れ去る危険な領域です。亡霊のような奇蹟の異形たちが、四方から絶え間なく悔悟者に襲いかかります。
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怨嗟の縦穴で異形たちと戦う悔悟者。 |
なんとか先へと進むと、もはや原型をとどめていないアーチ状の建築が残された空間へと到達します。そこには背中の曲がったヨボヨボの老婆がひとり佇んでいました。そう、彼女こそは先の闘いで力を用いた影響でさらに老化が進んでしまったヴィリディアナなのです。
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さらに老化が進んでしまったヴィリディアナ。 |
ヴィリディアナは、老いてしゃがれた声にも関わらず、これまでと同じように悔悟者への助力を申し出てきます。これ以上、力を用いたらどうなってしまうのか、その不安が頭をよぎりますが、彼女の言う通り、悔悟者の困難な使命はまだ道半ば。それは悔悟者の望みなのか、ヴィリディアナの望みであるのかはもはや解りませんが、この巡礼においては、悔悟者は彼女の助力に三度同意します。
通路の奥に進むと、いくつもの足場が宙に浮いた縦穴のような空間がありました。飛び上がって足場を踏むと、全身を黒装束に包んだ三体の女性型の異形「三苦悶」が空中に出現します。
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怨嗟の縦穴のボス、三苦悶。 |
三苦悶は傍らに浮遊させた黄金の槍や槌を投擲して遠距離攻撃を仕掛けてきます。悔悟者は下から徐々にせり上がってくる炎に飲み込まれないよう、足場を飛び移りながら上へと登りつつ、敵にダメージを与えなければなりません。体力を削られた三苦悶は合体し、三位一体の異形へと変貌し、巨大な魔法の火柱で悔悟者を焼き尽くそうとしてきます。
合体した三苦悶にとどめを刺すと、彼女たちは三体に分裂し、怨嗟の叫びを上げながら炎に包まれて灰燼に帰しました。三苦悶の消滅とともに足場は消失し、悔悟者は地面へと舞い戻ります。
同時に、瞬間移動で悔悟者のそばに出現したヴィリディアナは、勝利に貢献できたことを喜ぶと、「安息の地のサラバンド」という祈詞を悔悟者に託します。そして悔悟者に旅を続けることを促すと、激しく咳き込み、地面に倒れ伏して息を引き取るのでした。急激な老化を伴う献身も厭わない清廉なる魂、その臨終に立ち会った悔悟者は、サラバンドに刻まれた「我らが安息は 苦痛より出でる」という詞を胸に、巡礼を進めます。
次なる部屋で聖遺物である遺体の前に跪くと、悔悟者は夕焼け空の異空間に三度目の転移を果たします。
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聖遺物の遺体の前で跪き、異空間へと転移する。 |
三体目の聖なる守護者の貌は、その黄金で悔悟者の魂の「改悛」を溶かし消し去ります。三つ目の屈辱を果たした証である「改悛の聖傷」を授けられ、悔悟者は夢から帰還します。これにて「三つの屈辱」がすべて果たされ、重く閉ざされていた三試練の橋の扉が開かれるのです。
考察ポイント
三苦悶のキャラクター背景は、怨嗟の縦穴に登場するNPCアルタスグラシアスが関係している可能性が高いです。怨嗟の縦穴の最下層にある毛髪に覆われた巨大な卵に特定のアイテム3種を捧げることで姿を表すアルタスグラシアスは、望まぬ結婚を拒否した三姉妹が奇蹟の力によって合体してしまった異形の存在です。三苦悶の三体の女性が影のような黒いドレス姿であることや、合体して一つの存在となること、また大聖堂 屋上で入手できる祈詞「三姉妹のカンテ・ホンド」発動時のエフェクトには、明らかに三苦悶の姿が描かれていることからも、三苦悶はアルタスグラシアス三姉妹が望まぬ結婚に際して感じた苦悶から生み出された影のような存在なのではないでしょうか。
三苦悶とアルタスグラシアスの個別解説記事も、よろしければご参照ください。
また、三苦悶とアルタスグラシアスのように三体が合一した存在を、終わりなき黄昏山脈にいたレデントが「三位一体」と表現しています。この三位一体というキーワードは、キリスト教において神の本質に関する中心的な教義となっており、神を父なる神、子なるイエス・キリスト、そして聖霊という三つの位格(ペルソナ)を持つ唯一の存在として定義しています。
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三位一体を表現するセント・パトリック教会(カナダ・オンタリオ)のステンドグラス。 手は父なる神、魚(またはイクトゥス)は子なるキリスト、鳩は聖霊を象徴。 |
キリスト教の三位一体論についてはここでは深く立ち入りませんが、ブラスフェマスではこの三位一体という概念をモチーフとして、三苦悶やアルタスグラシアス以外にも多くの要素が「三」という特別な数字で構成されています。本章で取り扱う「三つの屈辱」とそれを守護する聖なる守護者の貌も三体であり、最初の奇蹟が出現した地は「三語の結び目」と呼称されていますし、物語後編で集めることになるのは「三つの仮面」です。さらに真エンドルートで登場するとある存在(天の意志)も、クリサンタによって「究極なる三位一体」と表現されています。「神とは三位一体である」という教義から、三位一体という形を抜き出して、「三位一体の存在は超越的・神聖なものである」というレトリックとして機能させていると言えるでしょう。
「三試練の橋」を越える
悔悟者が三つの屈辱を果たしたことで、遂に三試練の橋の閉ざされた扉が開かれます。
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三試練の橋の扉が開かれる。 |
天を仰ぎ見るような教皇(聖下 エスクリバー)の像の足元から、聖母教会へと至るための道が繋がるのです。デオグラシアスからは、試練の扉が開かれたことを告げられると同時に、「死は音を立てることもなく 突然私達に襲いかかるかもしれない」と警告を受けます。
怨嗟の縦穴から地上へと帰還した悔悟者は、試練の扉をくぐるために三試練の橋へと向かいます。しかし、橋梁を越えようとすると、ひとりの兵士風の男が立ちふさがります。これまで三つの屈辱を果たそうと各地を巡っていた悔悟者を密かに追跡していた「聖別軍 エズドラス」です。
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三試練の橋で悔悟者の前に立ちふさがる聖別軍 エズドラス。 |
エズドラスは姿の見えない妹へと語りかけると、「我が隊長 クリサンタの期待に応えよう」と高らかに宣言し、悔悟者を先へ進ませないよう、問答無用で戦いを挑んできます。エズドラスは手にした槌を振り回し、多彩な稲妻の魔法を畳み掛けてくる強敵です。狭い橋の上で敵の攻撃を躱しつつ、僅かな隙を見逃さずに懺悔の剣で斬りつけていく必要があります。
残り体力の減ったエズドラスは、「妹よ!」と叫び、終わりなき黄昏山脈で戦った赤い翼の女性兵士(ペルペチュア)を召喚してきます。兄妹二人がかりによる波状攻撃は悔悟者を追い詰めますが、ヴィリディアナの犠牲を背負った悔悟者も一人ではありません。彼女から託された「安息の地のサラバンド」も悔悟者を守護してくれます。
恐ろしい聖別軍の兄妹の攻撃を潜り抜け、エズドラスを打倒した悔悟者。そのとき、なんとペルペチュアが落とした稲妻によって、兄エズドラスの肉体は木っ端微塵に粉砕されてしまい、そのままペルペチュアも姿を消してしまいます。エズドラスの魂の声は妹への許しを乞うと、妹の待つ「夢の向こう岸」へと渡っていくのでした。
三つの試練、そしてさらに待ち受けていた強敵との闘いを乗り越え、悔悟者はようやく三試練の扉を潜り抜けます。すると、かつて聖線を越える際に出現した仮面の影像が現れ、再び悔悟者へと語りかけてきます。
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再び語りかけてくる青銅の仮面の老人(聖下 エスクリバー) |
以前は閉ざされていた青銅の仮面の半分が開き、内部の赤い肌が覗き見えます。老人の声は謎めいた言葉を残し、またもやすぐに消え去ってしまいます。奇蹟の揺籃が近づくにつれ、なにかとてつもなく巨きな存在が「そこ」にあることを、嫌でも感じずにはいられないのでした。
考察ポイント
物語の前半を通して悔悟者を追跡していたエズドラスは、聖別軍の上官であるクリサンタの命で悔悟者の巡礼を阻むために、立ちふさがりました。いっぽう、ペルペチュアとの闘いで入手したロザリオの珠「ペルペチュアの防具」の伝承を読むと、エズドラスは妹ペルペチュアの死によって狂ってしまったと同胞の兵からみなされており、聖別軍を出奔している微妙な立ち位置だったと思われる記述があるため、必ずしも聖別軍の組織的な派兵というわけではなさそうです。
デオグラシアスが語ったように、ペルペチュアが死後もエズドラスに声を届けることができていたのは兄の妄想ではないでしょう。しかし、真エンドルートをたどる際、妹が眠りし地で出会ったペルペチュアの魂が語るところによれば、エズドラスとともに悔悟者に襲いかかった存在は、奇蹟が生み出した偽物であったようです。通常ルートで敗北したエズドラスをペルペチュアが無慈悲に殺害してしまったのも、彼女が本物の妹ではなく、彼の妄執に呼応して奇蹟が生み出した怪物だったからであり、悔悟者との戦闘前にエズドラスが「もしもこの先に罪人を通すことになれば、この身体を捧げ食われよう」という誓願を文字通りに叶えてしまったからなのでしょう。ペルペチュアの本物の魂や、エズドラスがたどる別の道筋については、のちの真エンドルート記事にて触れたいと思います。
先んじてキャラ詳細について確認したい際には、下記の個別記事などもご参考いただければ幸いです。
また、物語前半で悔悟者が試練として果たした「三つの屈辱」とは何であったのか、そのヒントとなるのが、聖なる守護者の貌たちから授けられた三種の聖傷に付された伝承です。この伝承には「サント・クレド」(Santo Credo)という「聖なる信条・信仰宣言」が三節にわたって記されています。すべてを通して読むことで、この信仰宣言は、聖母教会の法王である聖下 エスクリバーを主体としたものとなっていることがわかります。
「悔恨の聖傷(サント・クレド第一節)」には、「聖下は高貴なる贖罪のために三種類の魂の苦しみに耐える必要がある」と記されています。この三種類の魂の苦しみというのが、「自責」、「悔恨」、「改悛」であることは言うまでもないでしょう。罪を贖うためには、まず罪を深く悔いる心(悔恨)がなくてはならず、またその原因や責任を他者に転嫁することなく自らを責める苦しみ(自責)を乗り越えたうえで、罪を悔い改める意志(改悛)を持たなければなりません。
これら三つのうちどれかが欠けても、おそらくは贖罪にふさわしい魂は生まれ得ないのでしょう。たとえば、自責の念のみが強くあったとしても、罪を悔い改めようとする意志がなければ単なる自罰的な感情で終わってしまいます。また、悔い改める決意のみが先行しても、まず罪を深く悔恨することがなければ、改めるべき罪を正しく認識したとは言えず、そのような改悛は片手落ちとなってしまうことは必定でしょう。この点で、自責と悔恨と改悛が三つで一つのもの(三位一体)として扱われているのは大いに納得できることと思われます。
また、「改悛の聖傷(サント・クレド第二節)」には、「奇蹟は聖人たちの魂から聖なる守護者の貌を作り出した。彼らは聖下の魂の傷の守護者である」と記されています。悔悟者に聖傷を授けた三体の聖なる守護者の貌は、聖下の傷を守るために「奇蹟」によって生み出された存在であることが示されており、同時に聖下と奇蹟との密接なつながりも暗に示されています。
そして、「自責の聖傷(サント・クレド第三節)」には、「三つの傷が合わさったとき、母なる神への扉は開かれる。囲いは壊され、禁断のものは冒涜に晒される」と記されています。デオグラシアスが語ったとおり、三つの屈辱を果たすことで「母なる神」を戴く聖母教会(万母の母)への道が開かれることが預言されています。高い壁で守られていた聖域の囲いは壊され、「奇蹟」を滅ぼすための「冒涜」が歩みを進めるのです。
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三試練の橋の扉の上にある聖下の巨大な彫像。 三つの魂の傷からか、苦しみに耐えるように天を仰いでいる。 |
このように、三つの屈辱(三試練)とは、おそらくはかつて聖下 エスクリバーが贖罪のために耐えたであろう三つの魂の苦しみ(悔恨・自責・改悛)を、悔悟者がその心身において象徴的に再現するプロセスであったことが読み取れます。
ではなぜ聖下の辿った道を悔悟者が再現する必要があったのか。まずこの時点で一つ言えるのは、悔悟者が聖下の座す万母の母に至るためには、魂の苦しみを乗り越えることで聖下と同じ領域へと近づく必要があったのではないか、ということです。聖なる守護者の貌を奇蹟が作り出したように、聖下は奇蹟によって守護されており、聖性を伴わない単なる暴力や悪意によっては傷つけられず、領域を侵されることもないのではないかと推察されます。奇蹟によって信仰心と罪悪感が殊更現実に強い影響を及ぼすクヴストディアにおいては、「苦しみによって魂を高める」という苦行・巡礼こそが何よりも強い力を持ちうる行為であり、巡礼前半の悔悟者にとっては、聖下の贖罪の苦しみをなぞることが「魂の成長」にとって不可欠なプロセスとなったのではないでしょうか。
また、少し穿った見方をすると、聖下 エスクリバーの贖罪は悔悟者の「予型」であった、という解釈も可能かもしれません。キリスト教の聖書解釈において、旧約聖書の記述は新約聖書の「予型」(予兆・前兆)であり、あくまで「原型」は新約にあるとする「予型論的解釈」のように、聖下の贖罪は、悔悟者の贖罪の型を予め示した類型とみなす解釈です。この解釈に立ってみると、聖下 エスクリバーの「旧い贖罪」の物語に対比して、悔悟者が今まさにプレイヤーの眼前で「新しい贖罪」の物語を紡いでいるのだ、というのは些か言いすぎでしょうか。
解説の続き
本解説の続きの記事は「後編:三仮面を集めて大聖堂 屋上へと昇る」を予定しています。
公開まで今しばらくお待ちください!
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